どん底

2004年6月9日
末吉の工事を遅めの8時に送りだす。
お茶の入れ方は様になったもののようで、どうやら私の役回しになったようである。

現地より部材不足の連絡がいる。
都城に部材を届け、日南に向け走る。

途中、遅めの昼食はかっての記憶の確認に1時間弱を費やし現地につく。

何十年ぶりであろうか。ここ南の郷付近は道路工事で一変していた。
ただこの愛の里はそのままでタイム・スリップ。

この地の愛の里なる命名者はどうやら物故され二代目さんであった。
お客さんは10数名。隠れた地鶏の名店である。

隣地の山の放し飼いは止められ、鶏肉は分業の時代のようである。
京都・清水の舞台よろしく沢の上での七輪での焼き鳥。

鳥刺身は絶品。このような鳥刺身を私は知らない。、
沢音のなか早めのカジカさえ聞こえる。

巨岩のあるところに土手伝いを降り、
岩清水の確かさを手元で、すくう。

母なる水の清きに接し五感が蠢き、英気がわくのがわかる。
癒し効果であろう。

石風呂なる不思議な浴は次回にお預け。
お湯ファンには応えられないものであろう。

日南は連絡の割には流暢である。初期の営業姿勢の典型を見る。
尤もAPAよりは組織化されている。

スタンド・プレーはいつまで持つのかわからぬが、体力勝負でがんばるしかない。

私が会社を空けていることにより、75枚のパネルが明日入ってくることさえ、この時点では知る由も無い。

山口からのお客さんと新メーカー・パネル入荷・入手の協議。
会社でも研究して、このパネルに取り組むこととした。

大型台風が近接してることの確認、協議。
激論の末今日上げたパネルをおろすことにした。

理解できないままの同意は心情上納得できない処置だが、妥協した。
実に華麗なる手戻り。

反省は無いままなので、意味が無いが何時ものことである。
12時までの話し合いは不毛な議論。

何度誤ればいいのか。
こうも毎日ではやる気がしない。

味方から背中よりこうも続けさま銃を撃たれたんじゃたまらない。
日南の話をしてるのに違う案件ではたまったもんじゃない!

憔悴しきってしまった。
パネル降ろし!後戻りのみを仕事というのか。

なぜ休暇をせぬのか。
元の力を発揮するには、休養しか思いつかない。

いいなぁ〜やわな性格。
私もそうありたい。

実にお目出度い。
気軽な人生観のほうが楽である。

挫折を癒すには中原中也に限る。

羊の歌   
  憔 悴

 私はも早、善い意志をもつては目覚めなかつた
起きれば愁(うれ)はしい 平常(いつも)のおもひ
私は、悪い意思をもつてゆめみた……
(私は其処(そこ)に安住したのでもないが、其処を抜け出すことも叶(かな)はなかつた)
そして、夜が来ると私は思ふのだつた、
此の世は、海のやうなものであると。
私はすこししけてゐる宵の海をおもつた
其処を、やつれた顔の船頭は
おぼつかない手で漕ぎながら
獲物があるかあるまいことか
水の面(おもて)を、にらめながらに過ぎてゆく

   II
昔 私は思つてゐたものだつた
恋愛詩なぞ愚劣なものだと

今私は恋愛詩を詠み
甲斐あることに思ふのだ

だがまだ今でもともすると
恋愛詩よりもましな詩境にはいりたい

その心が間違つてゐるかゐないか知らないが
とにかくさういふ心が残つてをり

それは時々私をいらだて
とんだ希望を起させる

昔私は思つてゐたものだつた
恋愛詩なぞ愚劣なものだと

けれどもいまでは恋愛を
ゆめみるほかに能がない

   III
それが私の堕落かどうか
どうして私に知れようものか

腕にたるむだ私の怠惰
今日も日が照る 空は青いよ

ひよつとしたなら昔から
おれの手に負へたのはこの怠惰だけだつたかもしれぬ

真面目な希望も その怠惰の中から
憧憬(しようけい)したのにすぎなかつたかもしれぬ

あゝ それにしてもそれにしても
ゆめみるだけの 男にならうとはおもはなかつた!

   IIII
しかし此の世の善だの悪だの
容易に人間に分りはせぬ

人間に分らない無数の理由が
あれをもこれをも支配してゐるのだ

山蔭の清水(しみづ)のやうに忍耐ぶかく
つぐむでゐれば愉(たの)しいだけだ

汽車からみえる 山も 草も
空も 川も みんなみんな

やがては全体の調和に溶けて
空に昇つて 虹となるのだらうとおもふ……

   V
さてどうすれば利するだらうか、とか
どうすれば哂(わら)はれないですむだらうか、とかと

要するに人を相手の思惑に
明けくれすぐす、世の人々よ、

僕はあなたがたの心も尤(もつと)もと感じ
一生懸命郷に従つてもみたのだが

今日また自分に帰るのだ
ひつぱつたゴムを手離したやうに

さうしてこの怠惰の窗(まど)の中から
扇のかたちに食指をひろげ

青空を喫(す)ふ 閑(ひま)を嚥(の)む
蛙さながら水に泛(うか)んで

夜(よる)は夜(よる)とて星をみる
あゝ 空の奥、空の奥。

   VI
しかし またかうした僕の状態がつづき、
僕とても何か人のするやうなことをしなければならないと思ひ、
自分の生存をしんきくさく感じ、
ともすると百貨店のお買上品届け人にさへ驚嘆する。

そして理窟はいつでもはつきりしてゐるのに
気持の底ではゴミゴミゴミゴミ懐疑の小屑(をくづ)が一杯です。
それがばかげてゐるにしても、その二つつが
僕の中にあり、僕から抜けぬことはたしかなのです。

と、聞こえてくる音楽には心惹かれ、
ちよつとは生き生きしもするのですが、
その時その二つつは僕の中に死んで、

あゝ 空の歌、海の歌、
ぼくは美の、核心を知つてゐるとおもふのですが
それにしても辛いことです、怠惰を迚(のが)れるすべがない!(6)

 みちこ

そなたの胸は海のやう
おほらかにこそうちあぐる。
はるかなる空、あをき浪、
涼しかぜさへ吹きそひて
松の梢をわたりつつ
磯白々とつづきけり。

またなが目にはかの空の
いやはてまでもうつしゐて
竝(なら)びくるなみ、渚(なぎさ)なみ、
いとすみやかにうつろひぬ。
みるとしもなく、ま帆片帆
沖ゆく舟にみとれたる。

  帰 郷

柱も庭も乾いてゐる
今日は好い天気だ
    縁の下では蜘蛛(くも)の巣が
    心細さうに揺れてゐる

山では枯木も息を吐く
あゝ今日は好い天気だ
    路傍(ばた)の草影が
    あどけない愁(かなし)みをする

これが私の故里(ふるさと)だ
さやかに風も吹いてゐる
    心置なく泣かれよと
    年増婦(としま)の低い声もする
あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ

   凄じき黄昏

捲き起る、風も物憂き頃ながら、
草は靡(なび)きぬ、我はみぬ、
遐(とほ)き昔の隼人(はやと)等を。

銀紙(ぎんがみ)色の竹槍の、
汀(みぎは)に沿ひて、つづきけり。
――雑魚(ざこ)の心を俟(たの)みつつ。

吹く風誘はず、地の上の
敷きある屍(かばね)――
空、演壇に立ちあがる。

家々は、賢き陪臣(ばいしん)、
ニコチンに、汚れたる歯を押匿(おしかく)す。

     悲しき朝

河瀬の音が山に来る、
春の光は、石のやうだ。
筧(かけひ)の水は、物語る
白髪(しらが)の嫗(をうな)にさも肖(に)…

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